- レシピ紹介 -
第十五回 たらの白子の料理法(たらの白子のちり鍋)
たらの白子・・・。これほど好き嫌いのハッキリする食品も珍しいでしょう。
苦手な人はと言えばもう口に入れるのもおぞましく、すぐ隣の席で人が食べているとまるで苦虫でも噛み潰したような顔で嫌悪感をあらわにして「よくそんなものを口にできるものだ。いったいこの人は気持ち悪くないのだろうか?」とでも言いたげで眺めたりしている。
一方好きな人は、秋の気配を感じたりするとそわそわして、白子の濃厚なその味を想像しては早く冬が来ないかなぁ、と待ち遠しくて仕方がないのです。秋が深まるころやっとで出始めたばかりの未熟な白子を見てにんまりと微笑むと共に「出たな。」とつぶやく。そして若いサッパリとした白子を賞味して「やっぱりまだ早いな。」などと「ひとりごと」を言いながらそれほどがっかりしていない。むしろこの後雪だるま式とも言えるほど日を追うごとにどんどん味が濃くなることを経験により知っているので楽しみで仕方がないのである。「やっぱりまだ早いな。」と言うときのその顔は落胆などでは全然なくまるで正月のお年玉を楽しみにしている子供の表情にも似た期待感一杯の顔なのである。やがてたわわに実るであろう成りたての未だ若い実を眺め、完熟し収穫するその時を想像する農夫の顔である。
白子好きは、それほどまでに楽しみにしてこの半年余り待っているのです。なぜなら白子は他の食品では代用が利かないからです。他のものじゃ駄目なんです。てんで違うんですから。
そうして待ちに待った旬を迎えた白子を皆様は色々と食べ方を工夫なさっていると思いますが、とある場所で耳にした魚屋さんと客の会話の中に気になるくだりがありました。
客:大事な白子を受け取り「橙酢で食べるのが好きだけどどうしたらいいかね?」
魚屋:「まず沸騰した湯にそっと入れたら・・・」
浩(浩二郎):(うん、そうそう)
魚屋:「グラグラ煮立たせないようにして・・・」
浩:(うんうん、その通り)
魚屋:「火が通ったらゆですぎないようにして・・・」
浩:(う~ん、完璧)
魚屋:「すぐに氷水で冷やして・・・」
浩:(なんじゃそりゃ!ガックリ)
思わず声に出して「ちょっとまった!」と言ってしまった。
「せっかく美味しくゆであがったのに何でわざわざ冷ますのよ!そのタイミングですぐにポン酢につけて食べようよ。」
魚屋の面目を潰すのは悪いと思ったがついつい口に出してしまった。せっかく湯煮して味がふくらみ、旨みが出たそのタイミングで食べるようにすべきである。ご家庭であれば食卓にコンロを持ち出して銘々ポン酢と薬味を用意し、土鍋に美味しい水(浄水若しくはミネラルウォーター)を目分量入れ、出し昆布適量を入れ、火にかけます。沸騰寸前に出し昆布を取り出し(爪が立てば出しは出ています※煮奴豆腐の項の出し汁のとり方参照)そこへ白子を食べる分だけ入れて少し白子が浮いてきて中まで温まっていれば食べごろです。各々、穴杓子か何かで湯を切って橙酢につけて食されよ。
もう一度同じことを繰り返した後、白菜、豆腐、椎茸、春菊、白葱など、お好みの野菜をあらかじめ用意しておきそれらを食べる量づつ入れ、煮えては食べ、白子も煮えては食べを繰り返し最後に雑炊などなされば良いでしょう。(もちろん、たらの身を一緒に入れれば正道、たらちり鍋となるわけです)
また、私どもの店では塩焼きが一番人気で私もいちばん好きでおすすめしておりますが、これはご家庭でなさるには少々難ありで、もし焼くのでしたらクッキングホイルを利用するのをおすすめします。(※海山五色ホイル焼の項参照)
いずれにしましても火の通し加減が大事ですのでこの点を良く注意してください。沸騰しまくった煮えたぎった湯の中でいつまでも入れていてはどんなに上質な白子でもタンパク質が熱によって完全に堅くなってしまい、ぼそぼそとした食感になってしまい、台無しになります。逆に加熱が足りないと外は熱々でも中は冷たくてどっちつかずで美味しくないと思います。一番いい頃合いを見極めることが肝要です。また、本当に新鮮なものであれば刺身で食べるのも悪くないでしょう。 白子をほんの一つまみ生のまま口に入れてみて味わってみてください。苦味がなく香りも良くて深い甘みを感じたならば、鮮度抜群の証拠です。こんな白子ならボールに水を溜めて酒をほんの少しと塩を一つまみ溶かしいれ氷を少しいれた中で表面のぬめりとか汚れをさっと洗い流しきれいな布巾で水気をよく切ってまな板の上に乗せ少し小さめの一口大に切り、器(器は磁器より陶器のほうが似合うと思います。例えば織部などは如何でしょう)に体裁よく盛り付け、妻をあしらって、紅葉おろしをのせ、小づけにポン酢と浅葱の小口切りを入れたものを添えて食卓に出してください。お酒にピッタリのおつまみになります。この他に白子の料理としては天ぷら、ムニエル、みぞれ鍋、白子豆腐など色々とありますがまた次の機会にご紹介させていただきます。
では皆様寒い季節インフルエンザなど、お体には十分注意されてお過ごしください。美味しいものを食べていれば必ず健康は守られます。心身ともにです。心と体に栄養を・・・御機嫌よう。
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