- レシピ紹介 -
第十七回 めばるの煮付け(煮魚のコツ)
今日は煮魚のコツについて少々記してみたいと思います。
特に切り身ではなく、めばるや鮎並、カサゴの様な一匹丸ごと煮る様な骨付き、皮付き、うろこ付きといった面倒臭そうな魚を煮る時のポイントを少々申し上げたいと思います。
こういった魚は春に脂がのって煮魚に向いた魚で確かに少々手間が掛かりますが、切り身の魚と違い、丸ごと煮ますので、コラーゲンやゼラチン質等が旨みと一緒に煮汁に出てきますので、非常に美味であるとともに美容と健康に随分役立つこととなります。
そんな訳で是非切り身じゃなく、こういった丸ごとの魚で煮魚をして下さい。
まずうろこを除きます。出刃包丁の切っ先や刃先を上手に使い分けながら魚の尾の方から頭の方に向かって魚に対して直角に刃を当てて身に切りキズを付けない様に注意したらうろこをパリッパリッと取り除いていきます。
大方うろこが取れたら箸の太いのを1本魚の口先からえら蓋(ホッペの辺り)に添う様に突っ込み、もう1本の箸を反対側のえら蓋に沿って突っ込み、鰓(えら)を挟む様にして2本の箸を握りこみ(右手)、左手で魚の胴をつかんでくるっと回転させるとえらが付け根からはずれて自由になります。それを箸で挟んだまますっと抜きますと鰓に内蔵もくっついて一緒に出てきます。これを「つぼ抜き」といいます。(ここまでの作業は仲の良い魚屋さんがいればお願いすればやってくれると思います)
こうしてうろことえらと内蔵が取れたら魚の胴中に体裁よく包丁で切り込みを入れて(飾り包丁ともいいますが、飾りとはいっても単なる飾りのみではありません。火通りが悪そうな身の厚い処へ入れるので火の通りが良くなると共に味がしみ込みやすくなり、また皮が熱で縮んで見苦しく破れるのも防ぐという事で大きな意味のある仕事なので必ず行って下さい)熱湯をにくぐらせて、すぐに冷水に取り(霜降り)、取り残したところや血だまりや余分なヌメリ等を除きます。(霜降りの目安は飾り包丁した切り込みがはっきり目立つ様に全体が縮んだ様な感じになればOKです。すぐに冷水に入れて下さい。)
この時にうろこは完全に除いて下さい。煮魚のうろこは感じが悪く、のどに貼りついたりしますので要注意。また血だまりやぬめりは生臭みの元となりますのでよく取り去って下さい。歯ブラシの様な物を魚の口から突っ込み、中骨の部分をブラシでこすって血だまりを取り除く様にしますと完璧です。
これで魚の下処理は完了です。
後はゴボウをよく洗って綺麗に土を落とし、5~6cm位の長さに切ってそれを太ければ縦に2~3本に切って一匹につき、2~3本つけて一緒に煮ます。
魚の大きさに合わせて鍋を用意して下さい。大き過ぎると出汁を沢山入れないといけませんので出汁も燃料も余計にかかって不経済ですし、長時間煮る事になるため魚の味も台無しでいいことなしです。小さすぎますと今度は鍋の側面に魚が強く押し付けられるようになり、底が焦げ付く事になります。鍋の底に丁度収まる位がベストです。
その鍋に収まりよく魚を並べてゴボウを一緒に入れ、出汁をひたひたに入れて下さい。出汁は昆布出汁か、一番出汁がいいと思います。二番出汁でもかまいません。
サバやあじ出汁又は煮干出汁の様なクセの強い出汁は避けて下さい。出汁の味が強すぎて主役の味が台無しです。
昆布出汁などは非常に好ましいと思いますが、出汁を取るのに少々注意が必要で、一番手軽な手法を紹介しますと、前日の晩からボールか何かに良い水を必要な量を汲んでそこへ軽く濡れた布巾で汚れを落とした上質の昆布をパキパキと折ってその水に浸して一晩おいて下さい。
明くる日には良質の昆布出汁となっていますので昆布を取り出し、それを使用して下さい。
ご家庭で煮魚をされるのに出汁は5合(約1L弱)もあれば十分でしょうからその水に対してなら昆布は5cm巾位の物なら10~15cmもあればいいと思います。一番出汁については前述してますので参考にして下さい。
さて、出汁がひたひた(材料が少し水面から出てる位)、お酒と味醂又は砂糖を少々入れて火にかけて下さい。そして醤油を少し控えめに入れて沸騰したら少し火を細め(中火)アクをすくいます。そして落とし蓋(クッキングホイルで結構です)をしてしばし煮て溜り醤油を入れてこの時点で味を決めて煮汁を煮詰めながら仕上げます。煮汁が残り少なくなったらお玉ですくってかけながら照りをつける様に煮ます。最終確認の味見をして良ければ火を止めて盛りつけます。
調味料を量についてはお好みとしかいいようがありませんが、ただ甘味は最初の時にある程度決めておきませんと後で追加しても染みにくいので注意して下さい。
醤油は少し控えめで入れて後で追加する様にした方が失敗が少ないと思います。一度入れ過ぎてしまってはもう何ともかんとも直しようがなく、しょっぱくなってしましまって、魚の味が台無しです。かといって、甘過ぎるのも駄目でこれは程々という表現しかできません。なぜなら人それぞれ好みの味があるのでそれに合わせて頂くより他ありませんからです。因みに当店の昔からの御贔屓のお客様で九州ご出身の方のお母さまは飯盒の様な長方形で縦長の深い特殊な鍋で鍋底に玉葱を沢山入れて玉葱とサンド状にして身を積み重ねて蓋をして酒と醤油だけで煮るそうです。お話を伺った時は少なからず驚いたのですが、よくよく考えてみますと九州の醤油は名古屋のものと比べると少し甘い味がしてとろみが少々あってこちらでいうところのお刺身溜りの様な醤油である事を思い出し、玉葱を一杯入れて煮るというアイデアと合わせて中々に合理的な方法であると流石に漁港のそばで生きる方の長年の文化なのかその母君だけのオリジナルなのか感心させられました。
そんな方法でしますと短時間で熱が伝わり水は玉葱から出る分だけで水っぽくなく砂糖を使わず、玉葱の甘みですっきり仕上がる上、魚臭さも消えるだろうとその母君の知恵に脱帽する思いでした。
さておき、煮えたら盛り付けですが、木杓子か一文字(お好み焼のコテの様なもの)等で魚の底の方をしっかりと持ち、くずさぬ様にそっと持ちあらかじめ用意の器にきれいに移して上から煮汁をそーっとかけゴボウと木の芽を体裁よくあしらって下さい。よく煮魚に生姜を入れますが、私は青魚以外感心しません。が、生姜の香りがお好きな方は針の様に細く刻んで水でさっと洗ったものを木の芽と共に添えれば上等な香りとなって好ましい一品となるでしょう。
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